歯医者が歯磨き粉をおすすめできない理由
- 大阪院 Ihana総合歯科
- 11月12日
- 読了時間: 12分
2025/11/11執筆
「おすすめの歯磨き粉はありますか?」
こんにちは。Ihana歯科北浜の院長岩﨑です。
SNSやYouTubeでは「歯医者が選ぶおすすめ歯磨き粉!」という動画をよく見かけますね。
けれど実は、歯科医師は特定の歯磨き粉をおすすめしてはいけないという決まりがあります。
「患者さんのためになるのに、なぜ?」と不思議に思われる方も多いでしょう。
今回はその理由と、私たちが大切にしている“正しい情報発信”についてお話しします。
簡単な内容はYoutubeにもアップロードしたので、まずはそちらから聞いてもらうと、分かりやすいと思います。
歯医者さんは歯磨き粉を「おすすめ」できない?その理由とは?
「先生、おすすめの歯磨き粉ってありますか?」
これは、歯科医院でよく聞かれる質問のひとつです。SNSやYouTubeなどでも、「歯科医が教える!おすすめの歯磨き粉〇選!」といった動画を見かけることがありますよね。歯の健康に敏感な方ほど、「本当にいいものがあるなら知りたい」「専門家に選んでもらえたら安心」と思うのは当然です。
ですが、現実には――歯科医師や歯科衛生士が、特定の市販歯磨き粉を「これがおすすめです」と発信することは、法律上かなりグレー、場合によってはアウトになる可能性があるのです。
「え、なぜ?誰にでも良さそうなものを教えるだけじゃないの?」
と思うかもしれません。でもそこに立ちはだかるのが、「薬機法(旧・薬事法)」という法律。医療従事者が商品の広告に関わると、それが誇大広告や過剰な信頼誘導と判断される恐れがあるため、基本的にはNGとされています。
つまり、たとえ本当に良い歯磨き粉であっても、医療資格を持つ人が公共の場で「これがいい」と言うと、過度な信頼を与えてしまう=広告行為とみなされる可能性があるわけです。
ここで大切なのは、「おすすめ歯磨き粉を発信していない歯科医師」=「情報を持っていない」わけではないということです。むしろ、薬機法をしっかり理解し、法令を守りながら誠実に診療している医療者ほど、そういった情報発信には慎重になっています。
だからこそ、SNSで情報が多く見える中でも、「発信していない=信用できない」とは限らないことを、知っておいていただけたらと思います。
とはいえ、まったく情報提供ができないわけではありません。次章では、そうした背景にある法律「薬機法」について、もう少し詳しく解説していきます。
法律で禁じられています:薬機法の規制とは?
前章でお伝えしたとおり、歯科医師や歯科衛生士が特定の歯磨き粉を「おすすめする」ことは、実は簡単なことではありません。その背景にあるのが、「薬機法(やっきほう)」という法律です。
薬機法(正式名称:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)は、医薬品や医療機器、化粧品などが、安全かつ適正に使用されることを目的とした法律で、以前は「薬事法」と呼ばれていました。
この法律の中には、「広告」に関する厳しいルールがあります。
まずは条文をご覧ください。 https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000145#Mp-Ch_10
第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。
2 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする。
この条文が、歯科医師が「この歯磨き粉がいいですよ!」と公の場で言えない最大の理由です。歯磨き粉は医薬部外品もしくは化粧品に分類されています。
ポイントは2つです
✅(1)虚偽または誇大な広告は禁止
どんな人でも、「効能・効果」について事実とかけ離れた表現を使ってはいけない。これは当然のルールです。
✅(2)医師などの発言は、それ自体が「誇大広告」と見なされることがある
ここが非常に重要です。たとえ虚偽でなくても、「医師が言っている=間違いない」と受け手が“過信してしまう可能性”があると、その広告・記事・SNS投稿は「誤認させる=誇大広告」として扱われるのです。
つまり、たとえ歯科医師が善意で「この歯磨き粉はフッ化物濃度が高くて効果的ですよ」と言ったとしても、それが「推薦」や「保証」のように受け取られれば、薬機法違反になる可能性があるということです。
このように、専門家の立場にある人の発言は、それだけで影響力が強いため、慎重さが求められているのです。
🔻違反するとどうなるのか?
薬機法に違反した場合の罰則は次のとおりです:
2年以下の拘禁
200万円以下の罰金
またはその両方
(参考:薬機法 第85条)
だからこそ、発信しない=知識がない、ではない
このように、薬機法は「過大な信頼によって消費者が誤認すること」を防ぐ目的でつくられています。そして、誠実な歯科医師・歯科衛生士ほど、このリスクを理解しているからこそ、発信を控えているのです。
逆に言えば、「おすすめ〇選!」のような投稿があふれていても、すべてが法的に適切とは限らない、という見方も必要かもしれません。
では、どうすれば歯磨き粉の正しい選び方を知ることができるのでしょうか?
実は、診療の中で患者さん個別に行うアドバイスは、通常「広告」には該当しないと解釈されており、薬機法第66条の規制対象になる可能性は低いとされています。
つまり、歯科医院での相談や問診の場であれば、患者さんの口腔状態や目的に応じて、適切な歯磨き粉を紹介することは可能です。
次章では、その例外と、どう活用すればよいかについて解説します。
ただし、院内でのアドバイスはOKです
前章までで、「歯科医師が特定の歯磨き粉を公におすすめすること」が薬機法上のリスクを伴う理由をご紹介しました。では、「本当に自分に合った歯磨き粉を知りたい」と思ったとき、どうすればいいのでしょうか?
答えはシンプルです。歯科医院で直接、相談してください。
院内での説明は「広告」に当たらない可能性が高い
薬機法が規制しているのは、「広告」に該当する行為です。では、その「広告」とはどう定義されているのでしょうか?
厚生労働省の『薬事法における医薬品等の広告の該当性について』によれば、薬機法上の広告に該当するかどうかは、以下の3つの要件で判断されます。
📌 薬機法における「広告」該当性の3要件 ・ 顧客を誘引する意図が明確であること(顧客誘引性) ・特定医薬品等の商品名が明らかにされていること ・一般人が認知できる状態であること
出典:厚生労働省「薬事法における医薬品等の広告の該当性について」(PDFリンク)
この3つすべてを満たす場合に、その情報発信は「広告」とみなされ、薬機法の規制対象となります。
一方で、歯科医院での診療中に、
目の前の患者さんに対して
その人の口腔内の状態を見た上で
必要な情報を提供する行為
は、「販売目的ではなく、医療行為の一環」として提供される情報であり、通常はこの3要件をすべて満たさないため、「広告」には該当しないと考えられています。
むしろ、正しい選び方は診療室でしかわからない
市販の歯磨き粉は数百種類にも及びますが、パッケージからは肝心な情報が読み取りにくいものも少なくありません。また、
知覚過敏の有無
歯周病リスク
着色や口臭の悩みなども、製品選びに大きく関わってきます。
このように、個別性の高い情報提供が求められる領域だからこそ、診療室の中で行うパーソナルなアドバイスが重要なのです。
「おすすめできません」は、責任ある立場だからこそ
ネット上には「おすすめランキング」や「歯科医が選ぶ〇選」といった情報があふれています。しかし、法的責任と倫理的責任を理解している医療者ほど、慎重な発信を選びます。
「おすすめはできません。でも、あなたに合ったものは一緒に選べます。」
それが、歯科医療の現場におけるもっとも誠実で、信頼に足る情報提供のあり方だと、私たちは考えています。
次章では、それでも皆さんが当院に来院できるわけではありませんから、特定の商品のおすすめはできませんが、「目的を意識すると歯磨き粉は選びやすい」という具体的な”選び方”を解説します。。むし歯予防に不可欠なフッ化物から、歯周病、着色、味、知覚過敏、口臭まで――「自分に合った歯磨き粉の選び方」を整理していきましょう。
歯磨き粉を選ぶときの6つの観点
市販の歯磨き粉は、ドラッグストアの棚を埋め尽くすほど種類があります。ですが、見た目やキャッチコピーに惑わされず、「何のために使うか?」という目的を意識すると、とても選びやすくなります。
ここでは、歯磨き粉を選ぶ際の代表的な6つの観点を紹介します。
① むし歯予防(=フッ化物の有無と濃度が最重要)
まず圧倒的に、とにかく、見て欲しいのは、フッ化物(フッ素)濃度です。むし歯予防において、いや歯磨き粉選びにおいて、最も確かな科学的根拠を持つ成分はフッ化物(フッ素)です。
フッ化物には、以下の3つのむし歯予防作用があると言われています。
再石灰化の促進
歯質の強化(耐酸性の向上)
むし歯原因菌の活動抑制
日本では、「フッ化物配合」と表示されていても、製品によって濃度は異なります。1450ppmが日本で販売されている最大濃度であり、6歳以上の方にはこれを選ぶ価値があります。
なお、フッ素に関しては多くのエビデンスが蓄積されており、むし歯予防における「一丁目一番地」といって差し支えありません。 なによりも優先してみてほしい成分と濃度です。
② 歯周病予防(成分効果は限定的、歯磨き自体が主役)
「歯周病に効く歯磨き粉」と書かれていても、実際にはその効果には注意が必要です。日本歯周病学会の見解などによれば、薬用成分(塩化セチルピリジニウムやトラネキサム酸など)の殺菌・抗炎症作用はあるものの、臨床的に有意な歯周病改善効果を示す根拠は限られているとされています。

※日本歯周病学会HPより引用
私も寡聞にして「歯周病に効く成分」についての強いエビデンスを見たことがありません。
つまり、歯周病予防で最も重要なのは、
正しいブラッシング技術
毎日のプラークコントロールであり、歯磨き粉はあくまで補助的な役割にすぎません。
「これを使えば歯周病が治る」という商品は、過度に期待すべきではありません。
③ 着色除去(ホワイトニングとの違いに注意)
「ホワイトニング」という言葉が使われていても、市販の歯磨き粉には歯の漂白作用(ブリーチング効果)はありません。
市販製品の「ホワイトニング」は、主に以下の機能を指します:
表面のステイン(着色)を落とす
光沢剤でツヤを出す
清掃剤(研磨剤)で物理的に白く見せる
つまり、本来の歯の色以上に白くすることはできません。それを望む場合は、歯科医院でのホワイトニング治療が必要です。
研磨効果の指標としてはRDAというものがありますが、RDAが記載されている商品は殆どありませんし、「RDAが高い」≠「着色除去効果が高い」のため、現状は歯磨き粉を作っている会社の宣伝文句を参考にするか、自分や他人の体感を参考にするくらいしかありません。
ちなみに、現在市販されている歯磨き粉は国際規格でRDA250以下を満たしており、適切な歯磨き圧であれば研磨剤が問題にあることはないと考えられています。

※日本歯磨工業会HPより引用
④ 味・使用感(継続性のために意外と大事)
機能成分だけでなく、「毎日使えるかどうか」も非常に重要な要素です。
辛すぎないか
泡立ちの量
口に残る感じが好みか
こうした「使用感」は継続性に直結します。いくら効果が高くても、使いづらければ結局続きません。自分にとってストレスのない製品を選ぶのも、大切な判断基準の一つです。
またよく聞く言説に「歯磨き粉を使うと磨いた気分になって、逆に歯磨き出来ない」というものがあります。もっともらしい説明ですが、科学的根拠には乏しい謬説と言えるでしょう。

※日本歯磨工業会HPより引用
⑤ 知覚過敏(専用成分が入っているか)
冷たいものや風で歯がしみる人には、知覚過敏ケア用の歯磨き粉がおすすめです。このタイプの製品には、以下のような成分が含まれていることがあります:
硝酸カリウム(神経の刺激を抑える)
乳酸アルミニウム(象牙細管を封鎖する)
ただし、効果の実感には数週間かかることもあります。
また知覚過敏が強い場合は研磨性が高い歯磨き粉は避けて、ブラッシング圧も弱めるように気をつけたほうが良さそうです。
さらに、使用を続けても改善が見られない場合は、早めに歯科を受診してください。
⑥ 口臭対策(一時的な香りか、原因ケアか)
口臭対策用の歯磨き粉も多く出回っていますが、その効果には2種類あります:
香料などによる一時的なマスキング効果
原因となる細菌やプラークの除去
根本的な口臭の改善には、原因の特定が不可欠です。歯磨きをしたら、口臭の原因をすべて取り除けるわけではないです。例えば、むし歯や歯の根の病気が臭いの原因であることもあります。さらに口臭だからと言って、口に原因があるとは限りません、全身の健康状態が及ぼす影響としての口臭もかなり多いです。強い香りでごまかす製品だけに頼るのではなく、原因にアプローチする視点を持ちましょう。
その意味で、口臭は私達歯科医師や医師のプロフェッショナルとの協力が大きな力になると思います。
まとめ
歯磨き粉を歯科医師・歯科衛生士がオススメできない理由がお分かり頂けたと思います。
薬機法の広告規制により、特定の商品の推薦をすることは禁止されています。
ただ、例えば医院で個別の患者さんにおすすめするのは広告の範囲ではないとみなされる可能性が高く、問題ないとされているので、歯科医院であなたにあった歯磨き粉の相談をしてもらえると嬉しいです。
もし、相談できる歯医者さんがいない場合は、目的に沿って歯磨き粉の成分を見てらうのが良さそうです。特にフッ化物が1450ppm(成人の場合)入っているのが最重要で、あとはどの点を重視するかによって歯磨き粉を探してみてください。
それでは、また次回のブログでお会いしましょう。

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