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妊娠中に歯医者さんに行ってもいいの?——安心して治療を受けるために知っておきたいこと

  • 執筆者の写真: 大阪院 Ihana総合歯科
    大阪院 Ihana総合歯科
  • 4月7日
  • 読了時間: 14分

こんにちは。Ihana歯科北浜院長の岩崎です。


「妊娠中は歯医者に行かない方がいい」——こんな話を聞いたことはありませんか?ご家族やお友達から言われたり、インターネットで目にしたりして、なんとなく「そうなのかも」と思っている方も多いのではないでしょうか。


実はこの考え、世界中の妊婦さんが共通して持ちやすい"誤解"のひとつであることが、複数の研究で明らかになっています。この記事では、妊娠中の歯科治療に関する正しい情報を、研究データをもとにわかりやすくお伝えします。「いつ受診すればいいの?」「麻酔やレントゲンは本当に平気?」といった疑問に、ひとつずつお答えしていきます。


女性患者が歯科用チェアでドクターと笑顔で会話。背景に緑の植物、X線画像。明るい診療室で和やかな雰囲気。

目次






どうして妊娠中はお口のトラブルが増えるの?



妊娠すると、体の中ではさまざまな変化が起こります。お口の中も例外ではありません。具体的には、次のような変化が重なることで、むし歯や歯ぐきの病気にかかりやすくなります。

ホルモンバランスの変化 妊娠中はエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンが大幅に増加します。これらのホルモンは歯ぐきの血管に影響を与え、歯ぐきが腫れやすく、出血しやすい状態を作ります。こうした歯ぐきの炎症は妊娠性歯肉炎——妊娠に伴って起こる歯ぐきの炎症——と呼ばれ、多くの妊婦さんが経験するトラブルです。

つわりによるセルフケアの難しさ つわりがひどい時期には、歯ブラシを口に入れるだけで気持ち悪くなってしまうことがあります。十分な歯みがきができない日が続くと、お口の中の細菌が増え、むし歯や歯周病——歯を支える骨や歯ぐきの組織が壊れていく病気——のリスクが高まります。

嘔吐による歯への影響 つわりで嘔吐を繰り返すと、胃酸が歯の表面に触れ、エナメル質——歯の一番外側を覆う、体の中で最も硬い組織——が少しずつ溶けてしまうことがあります。

にもかかわらず、「お腹の赤ちゃんに影響があるのでは?」「麻酔は大丈夫なの?」という不安から、歯科受診をためらう方が少なくありません。痛みや違和感を感じていても、「出産が終わるまで我慢しよう」と治療を先延ばしにしてしまうケースがとても多いのです。

しかし、むし歯や歯周病を放置することの方が、実はお母さんの体にとってリスクとなる可能性があります。 歯周病と早産・低体重児出産との関連を示唆する研究も報告されており、妊娠中のお口の健康管理はお母さんと赤ちゃんの両方にとって、とても大切なことなのです。




「妊娠中は歯医者に行かない方がいい」——この誤解はなぜ広まったの?



「妊娠中の歯科治療は赤ちゃんに悪い」という考えは、日本だけでなく世界中で見られる誤解です。なぜこれほど広まっているのか、複数の研究がその原因を明らかにしています。


研究が明らかにした「誤った思い込み」


Kamalabadi et al.(2023)によるシステマティックレビュー——複数の研究論文を網羅的に集めて分析する、エビデンスレベルの高い研究手法——では、妊婦さんや産後のお母さんが歯科治療の安全性について誤った認識を持ちやすいことが報告されています。

具体的には、こんな思い込みが多く見られました。

  • 「歯科治療が赤ちゃんに害を与える」

  • 「妊娠中の麻酔は危険だ」

  • 「歯ぐきから血が出るのは妊娠中だから仕方ない」

  • 「歯がもろくなるのは赤ちゃんにカルシウムを取られているから」

こうした根拠のない不安が、歯科受診を遠ざけている大きな要因であることがわかりました。特に注目すべきなのは、歯ぐきの出血や歯の弱さを「妊娠中だから仕方ない」と誤って受け入れてしまう傾向です。本来は治療やケアで改善できる症状なのに、「妊娠が終われば治る」と放置してしまうのは、もったいないことですよね。


受診を妨げているのは「不安」だけではない


Rocha et al.(2018)による質的研究のシステマティックレビュー——アンケートの数値だけでなく、インタビューなどで得られた「生の声」を丁寧に分析した研究——でも、妊娠中の歯科治療を妨げるさまざまな心理社会的な障壁が明らかにされています。

  • 歯科治療そのものへの恐怖心(これは妊娠に関係なく感じている方も多いですよね)

  • 医療者側の情報提供不足(「妊娠中の歯科治療について、産科の先生から何も説明がなかった」という声)

  • 周囲からの助言(「お母さんや義母に『妊娠中は歯医者に行かない方がいい』と言われた」)

こうした要因が重なって、受診を遅らせてしまうことが示されました。一方で、産科医や歯科医からの適切な情報提供が、受診を促す重要な「促進因子」となることも報告されています。つまり、正しい情報を得ることが、不安を解消する一番の近道なのです。


世界的に見ても「受診不足」は深刻


さらに、Frey-Furtado et al.(2025)の最新のシステマティックレビューでも、世界的に妊婦さんが歯科サービスを十分に利用できていない現状が確認されています。受診を妨げる障壁として、次のようなものが挙げられました。

  • 経済的な問題(治療費の負担)

  • 通院の負担(体調が不安定な中での移動の大変さ)

  • 「妊娠中の歯科治療は安全ではない」という思い込み

特に3つ目の「思い込み」が大きなバリア(障壁)となっていることが、改めて示されました。この記事を読んでくださっているあなたも、もしかしたら同じような不安を感じていらっしゃるかもしれません。これから、その不安にひとつずつお答えしていきますね。




妊娠中の歯科治療、いつ受けるのがベスト?




安定期(妊娠中期)がおすすめです


一般的に、妊娠中期(安定期:妊娠16週〜27週頃)が歯科治療を受けるのに最も適した時期とされています。この時期が良いとされる理由は、いくつかあります。

  • つわりが落ち着いていることが多く、お口を開けての治療が楽になります

  • お腹もまだそれほど大きくないため、診療台に仰向けになる姿勢も比較的楽に保てます

  • 胎児の器官形成が一段落している時期なので、治療による影響を最小限に抑えられます

もちろん、強い痛みや急な腫れなど、緊急性の高い症状がある場合は、安定期を待たずに受診してください。我慢することの方がリスクになることもあります。




麻酔は赤ちゃんに影響しないの?



これは多くの妊婦さんが最も心配されるポイントのひとつです。

歯科で使用される局所麻酔薬——治療する部分だけに効く麻酔で、意識はそのまま保たれます——のうち、最もよく使われるリドカインについては、通常の使用量であれば妊娠中の使用について各国の歯科学会でも認められており、胎児への悪影響を示す明確なエビデンスは報告されていません。

ここで「局所麻酔」と「全身麻酔」の違いを確認しておきましょう。歯科で使う局所麻酔は、注射した部分の周辺だけに効くもので、全身に影響を及ぼす全身麻酔とはまったく異なります。薬の量もごく少量で、血液中に入る量はわずかです。

ただし、麻酔を使用するかどうかは、歯科医師が妊娠の経過や週数、体調を把握した上で判断することが大切です。受診時には、妊娠週数や産科の主治医から受けている注意事項を必ず伝えましょう。




レントゲンは撮っても大丈夫?



「レントゲン=放射線=赤ちゃんに危険」というイメージを持つ方は多いかもしれません。しかし、歯科用のレントゲンについては、過度に心配する必要はありません。

その理由は次の通りです。

  • 照射部位がお口の周りに限定されるため、お腹(子宮)から離れた場所にX線が当たります

  • 胎児への被ばく量は極めて微量で、日常生活で自然に浴びている放射線と比較しても無視できるレベルです

  • 現代の歯科用X線装置は非常に高性能で、必要最小限の放射線量で撮影できるよう設計されています

とはいえ、緊急性がない場合は安定期以降に行うことが望ましいでしょう。歯科医師が「レントゲンが必要」と判断した場合は、その理由を聞いた上で、安心して撮影を受けていただいて大丈夫です。

なお、ここまでの内容(麻酔・レントゲン・処置の安全性)は、各国の歯科学会や産科学会のガイドラインに基づく一般的な見解です。提供されたエビデンスの中には、妊娠中の歯科治療の安全性を直接検証したランダム化比較試験——対象者を無作為にグループ分けして効果を比べる、最も信頼性の高い研究デザイン——やメタアナリシス——複数の研究結果を統計的に統合して分析する手法——は含まれていませんでした。今後さらなる研究の蓄積が期待される分野でもあります。


📋 コラム:歯科レントゲンに「防護エプロン」は必要?


歯科のレントゲン撮影というと、「鉛の防護エプロンを着けるもの」というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。しかし近年、この考え方は大きく変わってきています


アメリカ歯科医師会(ADA)—アメリカの歯科医療の基準を定める最も権威ある団体—や国際放射線防護委員会(ICRP)—放射線の安全な利用について世界的な指針を示す国際機関—をはじめとする主要な公的機関は、歯科撮影時の患者用防護エプロンの使用を推奨していません。


「えっ、防護エプロンなしで本当に大丈夫なの?」と驚かれるかもしれませんね。推奨されなくなった理由を、わかりやすくご説明します。


  • 現代の歯科用X線装置は非常に高性能で、X線の照射範囲がお口の周囲にピンポイントで絞られています。そのため、お腹に届く散乱線(本来の照射方向から外れて周囲に広がる微量の放射線)の量は、ほぼ無視できるレベルです

  • 歯科撮影1回あたりの被ばく量は約0.005mSv(ミリシーベルト)程度です。これがどのくらいかというと、私たちが日常生活で自然に受けている放射線量(年間約2.1mSv)のわずか約1,000分の1にすぎません。防護エプロンがあってもなくても、実質的な差はほとんどないのです

  • むしろ防護エプロンの着用が、エプロンが画像に写り込んで再撮影が必要になったりする可能性が指摘されています

  • さらに、防護エプロンは「見た目の安心感」を与える一方で、「わざわざ防護が必要ということは、歯科レントゲンは実は危険なのでは?」という誤った不安をかえって強めてしまうおそれもあります


つまり、防護エプロンを着けなくても歯科レントゲンの安全性は十分に確保されています。妊婦さんにとっても、必要な歯科レントゲンは安心して受けていただけるものです。「防護エプロンがないから不安」と感じる必要はありませんので、どうぞご安心ください。



「赤ちゃんにカルシウムを取られて歯がボロボロになる」って本当?



この話、妊娠中のお母さんなら一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。「赤ちゃんの骨や歯を作るために、お母さんの歯からカルシウムが溶け出す」——もっともらしく聞こえますが、これは正確ではありません。


科学的な事実はこうです


厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によれば、妊婦のカルシウム推奨量は成人女性と同じ650mg/日です。

「え? 妊娠中は赤ちゃんの分も必要だから、もっとたくさん摂らないといけないのでは?」と思われるかもしれません。実は、妊娠中は体が賢く適応して、腸からのカルシウム吸収率が自然に上昇するのです。そのため、通常の食事で推奨量を摂取していれば、追加で余分にカルシウムを摂る必要(付加量)はないとされています。

つまり、歯から直接カルシウムが溶け出して赤ちゃんに届く、ということは起こりません。 妊娠中に歯のトラブルが増えるのは、カルシウムが「取られる」からではなく、先ほどご説明したホルモンバランスの変化やつわりによるセルフケア不足が主な原因なのです。


それでもカルシウムは意識して摂りましょう


ただし、日本人女性のカルシウム摂取量は全体的に不足しがちであることが知られています。これは妊娠しているかどうかに関わらず、多くの女性に共通する課題です。以下のような食品からバランスよく摂取することを心がけましょう。

  • 乳製品:牛乳、ヨーグルト、チーズなど

  • 小魚:しらす、ししゃも、煮干しなど

  • 大豆製品:豆腐、納豆、厚揚げなど

  • 緑黄色野菜:小松菜、ほうれん草、ブロッコリーなど




家庭でできること——妊娠中のお口ケア実践ガイド




ステップ1:安定期に入ったら歯科健診を予約しましょう


妊娠中期(16週〜27週頃)に入ったら、まずは歯科健診の予約を入れましょう。多くの自治体では妊婦歯科健診を無料で実施しています。 お住まいの市区町村のホームページや、母子健康手帳に同封されている案内を確認してみてください。

歯科健診は、むし歯や歯周病の早期発見だけでなく、妊娠中のセルフケアについて専門家から直接アドバイスをもらえる良い機会です。「特に困っていないから」という方も、この機会にぜひ受けておきましょう。


ステップ2:毎日のセルフケアを工夫しましょう


妊娠中、特につわりの時期は、いつも通りの歯みがきが難しいこともあります。完璧を目指すよりも、できる範囲で続けることが大切です。

  • つわりが辛い時期は、小さめのヘッドの歯ブラシに替えてみましょう。 奥まで入れても「オエッ」となりにくく、楽にみがけることがあります

  • どうしても歯みがきが難しい時は、ぶくぶくうがいだけでもOKです。 水でお口をすすぐだけでも、食べかすや酸を洗い流す効果があります

  • 嘔吐後はすぐに歯をみがかないでください。 胃酸で歯の表面が一時的に軟らかくなっているため、すぐにみがくとかえって歯を傷つけてしまいます。まずは水やフッ素入り洗口液でうがいをして、30分ほど待ってからみがくようにしましょう

  • 間食の回数をなるべく減らし、だらだら食べを避けましょう。 食べ物がお口に入るたびに酸性の環境になり、歯が溶けやすい状態が続きます。食べる時はまとめて食べ、食べない時間をしっかり作ることが大切です


ステップ3:歯科受診時の準備をしましょう


いざ歯科を受診する際には、以下のポイントを押さえておくとスムーズです。

  • 母子健康手帳を持参しましょう。 妊娠週数や体調の経過を歯科医師に正確に伝えるために役立ちます

  • 産科の主治医から注意事項がある場合は、事前に確認しておきましょう。 例えば、特定の薬を飲んでいる場合や、安静が必要と言われている場合などは、歯科医師にも共有することが大切です

  • 体調が優れない日は無理をしないでください。 予約を変更しても構いません。「せっかく予約したのに申し訳ない」と思う必要はまったくありません。体調を最優先にしてくださいね




まとめ——妊娠中こそ、お口の健康に目を向けて



ここまでの内容を整理しましょう。

  • 妊娠中の歯科治療は「避けるべきもの」ではありません。 むしろ、妊娠中はホルモンの変化やつわりの影響でお口のトラブルが起こりやすく、積極的なケアが必要な時期です

  • 安定期(妊娠中期:16週〜27週頃)は治療を受けるのに適した時期とされています

  • 通常の歯科治療——クリーニング、むし歯治療、局所麻酔の使用など——は一般的に安全と考えられています

  • 歯科レントゲンも、胎児への被ばく量は極めて微量であり、必要な場合は安心して受けられます

  • 「赤ちゃんにカルシウムを取られて歯がボロボロになる」は誤解です。妊娠中の歯のトラブルには別の原因があります

「妊娠中だから」と我慢せず、気になることがあれば早めに歯科医師に相談しましょう。歯科医師と産科医が連携することで、安心して治療を受けることができます。

妊娠中のお口のことで気になることがあれば、大阪市中央区にありますIhana歯科北浜までお気軽にご相談ください。妊娠の時期や体調に合わせた、無理のない治療計画をご一緒に考えていきます。


参考文献


  1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2020年版). 2020. *日本人の栄養素摂取の目安を示す公的ガイドライン。妊婦のカルシウム推奨量や付加量について記載されています。*

  2. Frey-Furtado L, Melo P, et al. Oral healthcare access: self-perceived barriers faced during pregnancy - a systematic review. *BMC Public Health.* 2025. *妊婦さんが歯科サービスを利用する際に感じる障壁を、世界中の研究から網羅的にまとめたシステマティックレビューです。*

  3. Kamalabadi YM, Campbell MK, Zitoun NM, et al. Unfavourable beliefs about oral health and safety of dental care during pregnancy: a systematic review. *BMC Oral Health.* 2023. *妊婦さんや産後のお母さんが持ちやすい、歯科治療の安全性に関する誤った認識を調査したシステマティックレビューです。*

  4. Rocha JS, Arima L, Chibinski AC, et al. Barriers and facilitators to dental care during pregnancy: a systematic review and meta-synthesis of qualitative studies. *Cadernos de Saúde Pública.* 2018. *妊娠中の歯科受診を妨げる要因と促進する要因を、インタビューなどの質的研究をもとに分析したシステマティックレビューです。*

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