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おしゃぶりは歯並びに影響するの? いつまでに卒業すればいいの?——小児歯科医がエビデンスをもとにやさしく解説します

  • 執筆者の写真: 大阪院 Ihana総合歯科
    大阪院 Ihana総合歯科
  • 4月17日
  • 読了時間: 12分

「おしゃぶりって、歯並びに悪いんですか?」——これは、小児歯科の診察室でもっとも多く寄せられる質問のひとつです。赤ちゃんを育てていれば、一度は気になったことがあるのではないでしょうか。


こんにちは。Ihana歯科北浜の院長、岩崎です。


この記事では、最新の研究データをもとに、おしゃぶりと歯並びの関係をわかりやすくお伝えします。「使っていいの? ダメなの?」「いつやめたらいいの?」「どうやってやめさせるの?」——そんな疑問に、ひとつひとつお答えしていきます。


白いテーブルの上に淡いグリーンの乳児用おしゃぶりが置かれています。窓から明るい光が差し込み、柔らかい雰囲気です。


目次






そもそも、おしゃぶりは使っていいの? ダメなの?



赤ちゃんが泣き止まないとき、なかなか寝てくれないとき、おしゃぶりは育児の心強い味方ですよね。

赤ちゃんには「吸啜(きゅうてつ)」——つまり、ものを吸うという本能的な行動があります。これは母乳やミルクを飲むためだけではなく、「吸う」という動作そのものが赤ちゃんに安心感を与え、精神的な安定につながると考えられています。おしゃぶりは、この本能を満たしてあげるためのアイテムなのです。

一方で、「ずっと使っていたら歯並びが悪くなるのでは?」という不安を感じている保護者の方も少なくありません。

結論から言えば、おしゃぶりの使用そのものが「悪」ではありません。 大切なのは、「いつまで使うか」と「どのくらいの頻度で使うか」です。

近年、おしゃぶりの使用期間・頻度と歯並びへの影響について、信頼性の高い研究データがかなり蓄積されてきました。以下で、その内容を詳しく見ていきましょう。




おしゃぶりを長く使い続けると、歯並びにどんな影響があるの?




前歯がかみ合わなくなる「開咬(かいこう)」って何?


おしゃぶりや指しゃぶりのことを、専門的には「非栄養性吸啜習癖(ひえいようせいきゅうてつしゅうへき)」(NNSHs: Non-Nutritive Sucking Habits) と呼びます。少し難しい名前ですが、要するに「栄養を摂る目的ではない吸う癖」のことです。母乳やミルクを飲むための吸啜とは区別して、このように呼ばれています。

この非栄養性吸啜習癖と歯並びの関係を調べた研究は、世界中で数多く行われています。

2025年に発表された最新のシステマティックレビュー・メタアナリシス——これは、同じテーマに関する多数の研究を集めて統合的に分析する方法で、医学研究のなかでもっとも信頼性が高い手法とされています——では、非栄養性吸啜習癖のある子どもは、ない子どもと比較して、「開咬(かいこう)」、つまり前歯が上下でかみ合わない状態になるリスクが明らかに高いことが報告されました(Gao et al. (2025))。

「開咬」とは、奥歯をしっかりかみ合わせたときに、前歯の間にすき間ができてしまう状態のことです。「オープンバイト」とも呼ばれます。おしゃぶりや指を吸い続けることで、前歯が押し開かれてしまうイメージです。開咬があると、前歯で食べ物をかみ切りにくくなったり、発音に影響が出たりすることがあります。

さらにこの研究では、使用期間が長いほど、また1日あたりの使用時間が長いほど、開咬のリスクが上がる傾向があることも示されました。つまり、「どれだけ長く・どれだけ頻繁に使っているか」が重要だということです。


開咬だけじゃない? ほかにはどんな影響があるの?


おしゃぶりの影響は、開咬だけにとどまりません。

Doğramacı & Rossi-Fedele (2016) のメタアナリシスでは、非栄養性吸啜習癖が以下のような歯並びの問題とも関連していることが示されています。

  • 上顎前突(じょうがくぜんとつ)——いわゆる「出っ歯」のことです。上の前歯が前方に突き出た状態を指します。おしゃぶりを吸う動作のなかで、上の前歯が前方に押される力が繰り返しかかることが原因のひとつと考えられています。

  • 交叉咬合(こうさこうごう)——上下の奥歯のかみ合わせが、本来の位置からずれてしまう状態です。通常、上の歯は下の歯の外側にかぶさるようにかみ合いますが、それが逆になったり、ずれたりしてしまいます。

また、Schmid et al. (2018) のシステマティックレビューでは、おしゃぶりの使用が口腔顔面(こうくうがんめん)の構造全体——つまり、お口まわりや顔の骨格の発達全体——に影響を及ぼしうることが報告されています。具体的には、上顎(上あご)の歯列の幅が狭くなる傾向や、前歯部の開咬が主な所見として挙げられています。上あごの歯列が狭くなると、将来的に歯が並ぶスペースが不足し、歯並びが乱れやすくなることがあります。


どのくらいの期間使うと影響が出るの?——「期間と頻度」がカギ


Sadoun et al. (2024) のシステマティックレビューでは、非栄養性吸啜習癖と不正咬合(ふせいこうごう)——歯並びやかみ合わせの異常のこと——の関連が包括的に検討されました。

ここでの重要な知見は、習癖(吸う癖)が続く期間が長ければ長いほど、不正咬合のリスクが高まるということです。これは複数の研究で繰り返し確認されている、かなり確かな知見です。

裏を返せば、早い段階でやめることができれば、歯並びへの影響は限定的であると考えられるということでもあります。つまり、「おしゃぶりを使ったこと自体」よりも、「いつまで使い続けたか」のほうがはるかに重要なのです。

これは多くの保護者の方にとって、安心できるポイントではないでしょうか。




「矯正用おしゃぶり」なら安心なの?



ドラッグストアやベビー用品店で、「歯並びに配慮した設計」とうたう矯正用(オーソドンティック)おしゃぶりを見かけることがあります。形が平たかったり、特殊な形状をしていたりするタイプです。「これを使えば歯並びへの影響を防げるのでは?」と期待する方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、現時点の研究では、必ずしもそうとは言い切れません。

Medeiros et al. (2018) のシステマティックレビューでは、矯正用おしゃぶりと従来の丸型おしゃぶりを比較した複数の研究が分析されました。また、Corrêa et al. (2016) も同様のテーマで系統的レビューを行っています。

これらの研究を総合すると、矯正用おしゃぶりが従来型と比べて不正咬合を明確に予防できるという十分なエビデンス(科学的根拠)は、今のところ得られていません

もちろん、矯正用おしゃぶりに一定の工夫がされていることは事実ですが、「矯正用だから長く使っても大丈夫」と過信してしまうのは危険です。おしゃぶりの種類よりも、使用期間をしっかり管理することのほうが、歯並びを守るうえではずっと大切だと言えるでしょう。




おしゃぶりを使うと母乳育児に影響する?



歯並びの話題とは少し異なりますが、おしゃぶりの使用と母乳育児の関係も、多くの保護者が気にされるポイントです。

WHO(世界保健機関)は、「母乳育児成功のための10か条」というガイドラインのなかで、人工乳首やおしゃぶりの使用を避けることを推奨しています。これは、おしゃぶりに慣れてしまうと赤ちゃんがおっぱいを嫌がるようになる可能性(いわゆる「乳頭混乱」)を懸念してのことです。

ただし、この点についても研究が進んでいます。

Jaafar et al. (2016)コクランレビュー——コクランレビューとは、世界的に権威のある医学データベース「コクラン・ライブラリー」が発行するシステマティックレビューで、もっとも信頼性の高い医学的エビデンスのひとつとされています——では、母乳育児が十分に確立した後であれば、おしゃぶりの使用が母乳育児の期間に大きな影響を与えないとする結果が報告されています。

つまり、母乳育児がうまく軌道に乗った後のおしゃぶり使用については、過度に心配する必要はないかもしれません。ただし、母乳育児の状況はお母さんと赤ちゃんによってさまざまですので、気になる場合は、小児科医や助産師に個別にご相談いただくのが安心です。




家庭でできる実践アドバイス——卒業に向けてのステップ




いつまでにやめればいいの?——やめる時期の目安


多くの小児歯科の専門家が推奨しているのは、遅くとも2歳頃までにおしゃぶりを卒業することです。

先ほどご紹介したエビデンスでも、2歳以降におしゃぶりや指しゃぶりを続けていると、開咬や交叉咬合などの不正咬合のリスクが高まることが示されています。

ただし、「2歳の誕生日にぴったりやめなければいけない」というわけではありません。理想的には、1歳半(18か月)頃から少しずつ使用頻度を減らしていき、2歳頃までに卒業できるとスムーズです。「ある日突然やめる」よりも、段階的に減らしていくほうが、お子さんにとっても保護者にとっても負担が少なくなります。


どうやってやめさせたらいいの?——具体的なステップ


おしゃぶりの卒業は、お子さんにとっても保護者にとっても大きなチャレンジです。以下のステップを参考に、無理なく進めてみてください。

ステップ1:まずは日中の使用を減らす いきなりすべてのおしゃぶりを取り上げるのではなく、まずは起きている時間帯の使用をやめることから始めましょう。遊びに集中しているときや、ご機嫌なときは、おしゃぶりなしで過ごせることが多いはずです。

ステップ2:寝かしつけ時のみに限定する 日中の使用がなくなったら、次は「寝かしつけのときだけ」に限定します。お子さんにとって眠る前は不安を感じやすい時間帯なので、ここはあせらず、少し時間をかけても大丈夫です。

ステップ3:おしゃぶりに代わる「安心材料」を用意する お気に入りのぬいぐるみやブランケット、タオルなど、おしゃぶりの代わりに「安心できるもの」を用意してあげましょう。お子さんが自分で選んだものだと、より効果的です。

ステップ4:おしゃぶりなしで過ごせたら、しっかりほめる おしゃぶりを使わずに過ごせた時間があれば、「おしゃぶりなしでがんばれたね!」としっかりほめてあげてください。小さな成功体験の積み重ねが、お子さんの自信につながります。


やってはいけないこと


  • 叱らない: 「おしゃぶりはダメ!」と叱ったり、無理に取り上げたりすると、お子さんはかえって不安を感じ、おしゃぶりへの執着が強くなってしまうことがあります。

  • からしを塗るなどの罰は避ける: おしゃぶりに嫌な味をつけるなどの方法は、お子さんの心に傷を残す可能性があるため、おすすめしません。

  • 他の子と比べない: 「○○ちゃんはもうやめたよ」といった声かけは、プレッシャーになってしまいます。お子さんそれぞれのペースを尊重しましょう。




3歳を過ぎてもやめられないときは、どうすればいい?



3歳を過ぎてもおしゃぶりや指しゃぶりが続いている場合、歯並びやかみ合わせに影響が出始めている可能性があります。

ただし、焦る必要はありません。この段階で歯並びに変化が見られても、おしゃぶりの卒業とともに自然に改善するケースも多くあるからです。あごの骨や歯並びは成長とともに変化していくため、早い段階で対処できれば、大がかりな矯正治療が不要になることも少なくありません。

とはいえ、「大丈夫かな?」と気になったら、一度小児歯科を受診して、歯並びやかみ合わせのチェックを受けることをおすすめします。専門家の目で確認してもらうことで、必要な対応がわかり、保護者の方の不安も和らぐはずです。




この記事のポイントをまとめると



  • おしゃぶりの使用自体は悪いことではありません。 赤ちゃんにとって「吸う」ことは本能的な行動であり、精神的な安定にもつながります。

  • ただし、長期間の使用は歯並びに影響を及ぼす可能性があります。 具体的には、開咬(前歯がかみ合わない状態)、上顎前突(出っ歯)、交叉咬合(奥歯のかみ合わせのずれ)などのリスクが高まることが、複数のメタアナリシス(多数の研究を統合した信頼性の高い分析)で示されています。

  • 2歳頃までの卒業を目標に、1歳半頃から段階的に減らしていくのがおすすめです。 使い続けた「期間」が長いほどリスクが上がるため、「いつやめるか」が大切です。

  • 矯正用おしゃぶりへの過信は禁物です。 現時点では、矯正用おしゃぶりが従来型に比べて不正咬合を明確に予防できるという十分な根拠はありません。種類よりも使用期間の管理が重要です。

  • 3歳以降も続く場合は、小児歯科への相談を検討しましょう。 早めの受診で、適切なアドバイスを受けることができます。


お子さまの歯について気になることがあれば、大阪市中央区にありますIhana歯科北浜まで、お気軽にご相談ください。




参考文献



 非栄養性吸啜習癖(おしゃぶり・指しゃぶりなど)と前歯の開咬(かみ合わない状態)の関連を調べた、2025年発表の最新のシステマティックレビュー・メタアナリシスです。使用期間や頻度が長いほどリスクが高まることを示しています。

 非栄養性吸啜習癖が歯並び・かみ合わせの異常(不正咬合)に与える影響を包括的にまとめたシステマティックレビューです。習癖の持続期間が長いほど不正咬合のリスクが高まることを確認しています。

 おしゃぶりの使用が口まわり・顔面の構造(歯列の幅や前歯のかみ合わせなど)に与える影響を調べたシステマティックレビューです。上顎歯列の狭窄や前歯部の開咬が主な所見として報告されています。

 矯正用おしゃぶりと従来型おしゃぶりで、歯並びへの影響に違いがあるかを比較したシステマティックレビューです。矯正用が明確に不正咬合を予防できるという十分な根拠は得られていないと報告しています。

 おしゃぶりの使用制限が母乳育児の期間に影響するかを調べたコクランレビュー(もっとも信頼性の高いシステマティックレビューのひとつ)です。母乳育児が確立した後のおしゃぶり使用は、母乳育児の期間に大きな影響を与えないとする結果が報告されています。

 従来型と矯正用の人工乳首・おしゃぶりが口腔機能に与える影響を比較した系統的レビューです。おしゃぶりの種類による不正咬合リスクの明確な差は確認されていません。

 非栄養性吸啜習癖と不正咬合の関連を体系的に分析したシステマティックレビュー・メタアナリシスです。開咬だけでなく、上顎前突(出っ歯)や交叉咬合との関連も示しています。

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