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妊娠中の歯周病って、おなかの赤ちゃんにも影響するの? ── 最新の研究データをもとに、わかりやすく解説します

  • 執筆者の写真: 大阪院 Ihana総合歯科
    大阪院 Ihana総合歯科
  • 4月24日
  • 読了時間: 14分

「妊娠中は歯医者に行かないほうがいい」──こんな話を耳にしたことはありませんか?


実はこれ、医学的には正しくありません。むしろ、この思い込みのせいで歯科受診を控えてしまうことが、お母さんと赤ちゃん両方のリスクを高めてしまう可能性があるのです。


こんにちは。Ihana歯科北浜院長の岩崎です。


この記事では、妊娠中の歯周病──歯ぐきやその周りの組織に起こる慢性的な炎症の病気──が赤ちゃんにどんな影響を及ぼしうるのか、世界中の最新研究データをもとに、できるだけわかりやすくお伝えします。


女性が明るいバスルームで、鏡を見ながら歯を磨き、コップを手に微笑んでいる。棚にはタオルと洗面用品。リラックスした雰囲気。

目次






どうして妊娠すると歯ぐきのトラブルが増えるの?



妊娠すると、お母さんの体の中ではさまざまなホルモンが大きく変化します。とくにエストロゲンプロゲステロンといった女性ホルモンが増えることで、歯ぐきの血管が広がり、歯ぐきが腫れたり出血しやすくなったりします。

これが、いわゆる「妊娠性歯肉炎(にんしんせいしにくえん)」と呼ばれる状態です。「歯肉炎」とは歯ぐきに炎症が起きている状態のことで、多くの妊婦さんが経験するもので、決して珍しいことではありません。


放っておくと「歯周病」に進んでしまうことも


この歯ぐきの炎症を「妊娠中だから仕方ない」と放置してしまうと、炎症がさらに深い部分──歯を支えている骨や組織──にまで広がってしまうことがあります。これが「歯周病」です。

歯周病は単なる「歯ぐきの腫れ」ではなく、体全体の炎症反応と深く関わる慢性疾患です。歯周病菌やそれが作り出す炎症物質が血液に乗って全身をめぐり、お口の中だけでなく、さまざまな臓器や体の状態に影響を及ぼす可能性があることがわかってきています。


「赤ちゃんにカルシウムを取られて歯がボロボロになる」はウソ?


妊娠中によく聞く俗説に、「おなかの赤ちゃんに歯のカルシウムを取られて、お母さんの歯がもろくなる」というものがあります。しかし、これは医学的には正しくありません。

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、妊娠中はお母さんの体がカルシウムを吸収する効率が自然に上がるため、カルシウムの推奨量は妊娠していない成人女性と同じ650mg/日で、追加量(付加量)は必要ないとされています。

つまり、歯がもろくなるのではなく、ホルモン変化による「お口の環境の変化」こそが、歯ぐきトラブルの本当の原因なのです。この正しい理解が、適切なケアの第一歩になります。




歯周病があると、赤ちゃんにどんな影響があるの?




早産や低体重児のリスクが高まるという研究結果


近年、世界中の研究者たちが注目しているのが、歯周病と早産(そうざん)低体重児出生(ていたいじゅうじしゅっしょう)との関連です。

  • 早産とは、妊娠37週より前に赤ちゃんが生まれてしまうことです。通常の妊娠期間は約40週ですから、37週未満というのは赤ちゃんの体がまだ十分に成熟していない段階での出産ということになります。

  • 低体重児出生とは、生まれた時の体重が2,500g未満であることを指します。

「お口の病気がおなかの赤ちゃんにまで影響するなんて、本当なの?」と驚かれるかもしれません。そのメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、歯周病によって生じた炎症物質が血液を通じて全身に広がり、子宮の収縮を促したり、胎盤に影響を与えたりする可能性が考えられています。

では、実際にどのような研究があるのでしょうか。ここでは、特にエビデンスレベル(科学的な証拠としての信頼度)が高い研究を中心にご紹介します。


複数の大規模な研究が「関連あり」と報告


システマティックレビューメタアナリシスという言葉が出てきますが、これは「過去に行われたたくさんの研究を網羅的に集めて、統計的に統合して分析する」という研究手法のことです。個々の研究だけでは偏りが出ることがありますが、多くの研究をまとめて分析することで、より信頼性の高い結論を導くことができます。科学的な証拠としては最もレベルが高い研究手法とされています。

  • Manrique-Corredor et al.(2019)は、31件の研究(対象者計10,215名)をメタアナリシスで統合し、お母さんの歯周病が早産リスクの上昇と関連することを報告しました。1万人以上のデータをまとめた大規模な分析ですので、結果の信頼性は高いといえます。

  • Zhang et al.(2022)のさらに大規模なメタアナリシスでは、歯周病と3つの赤ちゃんへの悪影響──早産(PTB)、低体重児(LBW)、在胎不当過小(SGA)──との関連が評価されました。「在胎不当過小」とは、同じ妊娠週数の赤ちゃんと比べて体が小さすぎる状態のことです。この研究では、いずれの項目においても歯周病との統計的に有意な関連が認められました。「統計的に有意」とは、偶然では説明できないほど明確な差があるということを意味します。

  • 最新の研究であるSokos et al.(2026)のシステマティックレビュー・メタアナリシスでも、歯周炎(しそうえん)──歯周病の中でもより進行した状態──を有する妊婦さんは早産リスクが高いことが改めて確認されています。

  • Montoya-Carralero et al.(2024)は、WHO(世界保健機関)の報告として歯周病が世界の成人人口の約19%(およそ5人に1人)に影響を及ぼしていることを踏まえた上で、歯周病と早産の関連を系統的にレビューし、同様の結論を導いています。歯周病は決して特殊な病気ではなく、多くの人がかかりうる身近な病気だからこそ、その影響を正しく知っておくことが大切です。

  • Moliner-Sánchez et al.(2020)の研究では、興味深い視点から分析が行われています。国の所得水準(一人当たり国民所得)の違いによって、歯周病と早産・低体重児出生のリスクの関連がどう変わるかを検討しています。医療へのアクセスや生活環境が研究結果に影響する可能性があるため、このような多角的な分析は重要です。


歯周病は「妊娠高血圧腎症」とも関連がある?


歯周病の妊娠への影響は、早産や低体重児だけにとどまらない可能性があります。

Le et al.(2022)のメタアナリシスでは、歯周炎が「妊娠高血圧腎症(にんしんこうけつあつじんしょう)」のリスク上昇とも関連する可能性が示されています。

「妊娠高血圧腎症」とは、妊娠中に血圧が異常に高くなり、同時に腎臓の機能が低下してタンパク尿が出る合併症のことです。医学的には「子癇前症(しかんぜんしょう)」とも呼ばれ、重症化するとお母さんと赤ちゃんの両方に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

歯周病による慢性的な炎症が血液を通じて全身に広がり、血管の内側を傷つけることで、こうしたさまざまな妊娠合併症に影響を及ぼしうるという考え方が、近年の研究で広がってきています。




歯周病を治療すれば、早産は防げるの?



ここが、多くのお母さんにとって最も気になるポイントだと思います。

結論から申し上げると、「歯周病と早産の"関連"は多くの研究で示されていますが、歯周病を治療すれば早産を"予防"できるかどうかは、まだ科学的に明確に証明されていない」というのが、現時点での正確な評価です。


最も信頼性の高いレビューの結論


Iheozor-Ejiofor et al.(2017)は、コクラン・レビューと呼ばれる、医学研究の中で最も信頼性が高いとされるシステマティックレビューです。コクラン共同計画(Cochrane Collaboration)という国際的な学術機関が、厳格な手法で行う分析であり、世界中の医療ガイドライン作成にも使われています。

このコクラン・レビューでは、妊娠中に歯周治療を受けたグループと受けなかったグループを比較した結果:

  • 歯周病そのもの(歯ぐきの炎症など)は明らかに改善した

  • しかし、早産や低体重児出生のリスクを統計的に有意に低下させるという十分な証拠は得られなかった

という結論でした。


最新の研究はどう言っている?


最新のThomas et al.(2026)のメタアナリシスでも、歯科治療による早産リスクの低減効果が改めて評価されましたが、これまでのRCT(ランダム化比較試験──参加者を無作為にグループ分けして比較する、治療効果を調べるための最も厳密な研究デザイン)のエビデンスにはばらつきがあることが指摘されています。つまり、「効果がある」という研究もあれば「はっきりしない」という研究もあり、結論が一致していないのが現状です。


それでも歯周治療には意味がある


ただし、ここで大切なことがあります。

Xu et al.(2025)は、RCTのメタアナリシスにおいて、歯周治療が妊娠性歯肉炎の改善に効果的であることを確認しています。つまり、歯ぐきの腫れや出血を改善し、お母さんのお口の健康を守る効果は確実にあるのです。

Wu et al.(2024)ネットワークメタアナリシス──複数の異なる治療法を同時に比較できる高度な分析手法──では、さまざまな歯周治療の方法(スケーリング、ルートプレーニング、洗口液の使用など)を比較し、最も効果的なアプローチの検討が行われています。

また、Salama et al.(2024)の研究では、スケーリング・ルートプレーニング──歯の表面や歯の根(歯ぐきの中に隠れている部分)に付着した歯石やバイオフィルム(細菌のかたまり)をていねいに除去する処置──と洗口液(マウスウォッシュ)の併用が、早産・低体重児リスクに与える影響を分析しています。


まとめると…


歯周治療そのものは、お母さんのお口の健康にとって確実にプラスであり、妊娠中でも安全に行えます。 赤ちゃんへの直接的な予防効果についてはまだ研究が進行中ですが、お口の健康を保つこと自体に大きな意義があることは間違いありません。「治療で早産を防げるかどうか」という一点だけに注目するのではなく、お母さん自身の健康を守るためにも、歯周治療は重要な意味を持っています。




妊娠中の歯科受診、本当に大丈夫なの?




「妊娠中の歯科治療は危険」は誤解です


Kamalabadi et al.(2023)のシステマティックレビューでは、世界中の研究を分析した結果、多くの妊婦さんが「妊娠中の歯科治療は赤ちゃんに悪影響がある」という誤った認識を持っていることが明らかになっています。

この誤解が原因で歯科受診をためらい、結果としてお口の状態が悪化してしまう──これは、お母さんにとっても赤ちゃんにとっても望ましくないことです。

実際には、妊娠中の歯科検診やクリーニング(歯石の除去など)は安全に行えます。以下に、歯科受診の際のポイントをまとめました。


歯科受診のポイント ── 4つのステップ


ステップ1:受診のタイミングを知る

  • 最も適しているのは安定期(妊娠中期:16〜27週頃)です

  • この時期はつわりも落ち着いていることが多く、おなかもまだそれほど大きくないため、治療を受けやすい時期です

  • ただし、歯ぐきの出血や痛みがある場合は、時期を問わず早めに相談しましょう

ステップ2:妊娠していることを必ず伝える

  • 受付や問診の際に、妊娠週数を含めてしっかり伝えてください

  • 使用する薬や治療方法を妊娠中に適したものに調整してもらえます

ステップ3:不安なことは遠慮なく質問する

  • 歯科でのレントゲン撮影は、防護エプロン(鉛の入ったエプロン)を着用すれば安全に行えます

  • 局所麻酔(治療部位だけに効く麻酔)も、妊娠中に使える安全な種類のものがあります

  • 気になることは何でも歯科医師に質問してください

ステップ4:定期的なフォローアップ

  • 一度の受診で終わりではなく、出産までの間に必要に応じてフォローアップを受けましょう

  • 出産後もお口の健康チェックを続けることが大切です




今日からできる! 妊娠中のお口のセルフケア



歯科受診と同じくらい大切なのが、毎日のセルフケアです。妊娠中は特にていねいなケアを心がけましょう。


基本の歯みがき


  • 1日2回以上フッ素入りの歯磨き粉を使って歯をみがきましょう

  • フッ素には、歯の表面のエナメル質──歯の一番外側にある、体の中で最も硬い組織──を強くし、むし歯菌が出す酸から歯を守る効果があります


つわりがつらい時期の工夫


つわりの時期は、歯ブラシを口に入れるだけで吐き気を感じる方も少なくありません。そんなときは、以下の工夫を試してみてください。

  1. 歯ブラシを小さめのヘッドのものに替える ── 口の奥に触れる面積が小さくなり、吐き気が軽減されることがあります

  2. 歯磨き粉の味を変えてみる ── ミント味が苦手なら、フルーツ味や低刺激タイプを試してみましょう

  3. 気分が良いタイミングを選ぶ ── 無理に「朝食後・就寝前」にこだわらず、体調が比較的良い時間帯にみがくのも一つの方法です


つわりで嘔吐してしまった後のケア


つわりで嘔吐した後は、口の中が胃酸で酸性に傾いています。すぐに歯をみがくと、胃酸で一時的に軟らかくなったエナメル質を傷つけてしまうおそれがあります。

  1. まず、水やフッ素洗口液で口をよくすすぐ

  2. 30分ほど時間を置いてから、歯をみがく

この「30分ルール」を覚えておいてください。


歯と歯の間のケアも忘れずに


歯ブラシだけでは、歯と歯の間の汚れの約40%は取り残されるといわれています。

  • デンタルフロス(糸ようじ)や歯間ブラシを使って、歯と歯の間もしっかりケアしましょう

  • 使い方がわからない場合は、歯科医院で指導を受けることができます




今回の記事のまとめ



最後に、この記事でお伝えした大切なポイントを整理します。

  • 妊娠中はホルモンの変化によって、歯ぐきのトラブルが起きやすくなります。 これは多くの妊婦さんに共通する変化であり、適切なケアで対応できます。

  • 複数の大規模な研究(システマティックレビュー・メタアナリシス)で、歯周病と早産・低体重児出生との関連が示されています。 歯周病は「お口だけの問題」ではなく、全身の健康に影響する可能性がある病気です。

  • 歯周病の治療によって早産を確実に予防できるというエビデンスは、まだ十分ではありません。 しかし、これは「治療に意味がない」ということではありません。

  • お母さん自身のお口の健康を守る上で、歯周治療は有益であり、妊娠中でも安全に行えます。 お口の炎症を改善することは、お母さんの全身の健康にとってプラスです。

  • 「妊娠中は歯医者に行けない」は誤解です。 安定期を中心に、積極的に歯科を受診しましょう。

  • 毎日のていねいなセルフケアが、お母さんと赤ちゃん両方の健康を支えます。 歯みがき、フロス、歯科受診──この3つの柱を大切にしてください。

お子さまの歯について気になることがあれば、大阪市中央区にありますIhana歯科北浜まで、お気軽にご相談ください。




参考文献



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  14. Iheozor-Ejiofor Z, Middleton P, Esposito M, et al. Treating periodontal disease for preventing adverse birth outcomes in pregnant women. *Cochrane Database Syst Rev.* 2017. *妊娠中の歯周病治療が出産への悪影響を予防できるかを検討した、最も信頼性の高いコクラン・レビュー。*

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