「親知らずは早めに抜いた方がいい」って本当?症状がなくても抜く?
こんにちは。Ihana歯科北浜の院長岩崎です。
「親知らずは早めに抜いた方がいいらしい」:こんな話を聞いたことはありませんか? お子さんの検診で「親知らずがありますね」と言われると、「すぐ抜いた方がいいの?」「放っておいて大丈夫?」と、不安になる保護者の方は多いのではないでしょうか。
実はこのテーマ、世界中の歯科の専門家の間でも意見が分かれている、とても難しい問題なのです。この記事では、現時点で分かっていること・分かっていないことを整理しながら、保護者の方が知っておきたいポイントをお伝えします。
この記事で分かること
- 症状も病変もない埋伏親知らずを「念のため」抜くべきかは、コクランレビュー(Ghaeminia 2020)でも結論が出ていない
- 親知らず周りの歯ぐきの炎症(智歯周囲炎)は、横向きのものより、まっすぐで歯ぐきから一部顔を出した親知らずで起きやすい(Galvão 2019)
- 10代半ばのレントゲンと年1〜2回の検診で見守り、腫れ・痛み・隣の歯のむし歯などが出たときに抜歯を検討する

目次
1. そもそも「親知らず」ってどんな歯?
親知らずの正式な名前は第三大臼歯(だいさんだいきゅうし)といいます。「大臼歯」というのは、奥歯の中でも特に大きくて平らな、食べ物をすりつぶす役割を持つ歯のことです。第三大臼歯はその中で一番奥(つまり、歯列の最後尾)に位置しています。
「親知らず」という名前は、この歯が生えてくる頃には子どもが親元を離れていることが多かったため、「親が知らないうちに生える歯」という意味でつけられたといわれています。
いつ頃生えてくるの?
一般的には17〜25歳頃に生えてきます。ただし、実際に歯ぐきの上に顔を出す前から、10代半ば(15歳前後)にはレントゲン写真であごの骨の中に親知らずの存在を確認できることが多いです。つまり、中学生〜高校生の時期の検診が、親知らずの状態を把握する最初のチャンスになります。
なぜ親知らずはトラブルを起こしやすいの?
ここで一つ、大切な背景をお伝えします。私たちの遠い祖先は、硬い食べ物を噛み砕くために大きなあごを持っていました。ところが、食生活が柔らかいものへと変化するにつれて、現代人のあごは昔に比べてだんだん小さくなってきたと考えられています。
あごが小さくなっても歯の本数は変わらないため、一番最後に生えてくる親知らずには「居場所」が足りないケースが非常に多くなりました。その結果、以下のような状態になることがあります。
- 埋伏(まいふく):歯があごの骨や歯ぐきの中に完全に埋まったまま出てこられない状態
- 半埋伏:歯の一部だけが歯ぐきから顔を出している状態(この状態が特にトラブルを起こしやすいです)
- 傾斜(けいしゃ):まっすぐではなく、斜めや横向きに生えてしまう状態
このように、親知らずはそもそも「正常に生えにくい歯」であるからこそ、抜くべきか残すべきかが問題になるのです。
2. 「とりあえず抜いておく」時代から、どう変わったの?
かつての考え方
以前は、「埋まっている親知らずは、いずれトラブルを起こすだろうから、症状が出る前に予防的に抜いておこう」という考え方が歯科の世界では主流でした。「問題が起きてからでは遅い」「若いうちの方が抜きやすい」という理由から、見つかったら抜くという方針がとられることも珍しくありませんでした。
現在の世界的な流れ
しかし近年、この方針に対して「本当にそれでいいのか?」という見直しの動きが世界的に広がっています。
たとえば、イギリスの医療技術評価機関であるNICE(National Institute for Health and Care Excellence)(イギリスの公的医療制度において、治療法の有効性やコストを科学的に評価する権威ある組織)が示した指針では、病的な変化がない埋伏親知らずの予防的抜歯は推奨されないとしています。
さらに、Hounsome et al.(2020)による研究では、このテーマについて過去の研究を網羅的に集めて分析する「システマティックレビュー」という手法と、医療経済の観点からの評価を行いました。その結果、予防的に抜く場合と残して様子を見る場合を直接比べた臨床研究はごく限られ、健康上の利点を示す根拠は不足していると報告しています。費用対効果については、先に公表されていた経済評価2本は「予防的抜歯を支持する経済的根拠はない」としていた一方、この研究チームが観察データから組んだ探索的なモデルでは、予防的抜歯のほうが費用対効果の面で有利になる可能性も示されました。研究チーム自身が、直接比較の試験が無いことを限界として挙げています。
つまり、「とりあえず抜く」から「本当に抜く必要があるのか、一人ひとりの状況を見て判断する」という考え方へと、世界の潮流が変わってきているのです。
3. 科学的な研究は何を教えてくれるの?
「抜く」と「様子を見る」、どちらが正解?
この問いに対する答えを出すために、最も信頼性の高い研究の一つであるコクランレビューが行われています。コクランレビューとは、世界中の臨床研究を厳密な基準で集め、総合的に評価する「研究の中の研究」とも呼べるもので、医学の世界では最も質の高いエビデンス(科学的根拠)の一つとされています。
Ghaeminia et al.(2020)のコクランレビューでは、無症状(痛みや腫れなどの症状がない)で病変(むし歯・嚢胞などの病的な変化)もない埋伏親知らずについて、「予防的に抜歯する場合」と「そのまま経過観察する場合」を比較しました。
このレビューの結論は非常に明確で、こう述べています。
「予防的抜歯を支持する十分なエビデンスも、否定する十分なエビデンスも、現時点では存在しない」
少しわかりにくいかもしれませんので、かみ砕いて説明しますと、「症状がないなら抜かなくても問題ない」とも、「症状がないうちに抜いた方がいい」とも、今の科学では結論が出せないということです。この結論は、2016年版のコクランレビュー(Ghaeminia et al., 2016)の時点からずっと変わっていません。
「結論が出ていない」と聞くと不安に感じるかもしれませんが、これは裏を返せば、「必ず抜かなければいけない」わけでもなく、一人ひとりの状態に合わせて判断する余地があるということでもあります。
親知らずを残しておくと、どんなトラブルが起きることがあるの?
「じゃあ、抜かなくていいの?」と思われるかもしれませんが、親知らずにまったくリスクがないわけではありません。埋伏した親知らずに関連して起こりうる問題には、以下のようなものがあります。
1. 智歯周囲炎(ちししゅういえん):親知らず周りの歯ぐきの炎症
これは親知らずに関連するトラブルの中で、最も多いものの一つです。親知らずが歯ぐきの中から完全に出きれず、歯と歯ぐきの間に細菌がたまりやすくなることで、歯ぐきが赤く腫れて痛みが出る症状です。ひどくなると、口が開きにくくなったり、飲み込む時に痛みを感じたりすることもあります。
Galvão et al.(2019)のシステマティックレビュー・メタアナリシス(複数の研究データを統合して、より精度の高い結論を導き出す分析手法)では、親知らずの生え方と智歯周囲炎の起きやすさに関連があることが示されています。21の研究(6,895人)をまとめた結果では、まっすぐ(垂直)に生えていて、歯の頭が歯ぐきから一部顔を出している親知らずで智歯周囲炎が最も起きやすく、横向きに埋まっているものはかえって起きにくい、という向きでした。
智歯周囲炎については「斜めだから危ない」とは限らず、歯ぐきとの境目に細菌がたまる形になっているかどうかで、リスクの大きさが変わります。横向きの親知らずで問題になりやすいのは、次に挙げる隣の歯への影響のほうです。
2. 隣の歯への悪影響
親知らずのすぐ手前にある歯は第二大臼歯(だいにだいきゅうし)と呼ばれます。親知らずが斜めに生えていると、この第二大臼歯に寄りかかるような形になり、以下のような問題を引き起こすことがあります。
- むし歯:親知らずと第二大臼歯の間に食べかすがたまりやすく、歯ブラシも届きにくいため、むし歯ができやすくなります
- 歯周病:同じ理由で、歯ぐきの炎症が起こりやすくなることがあります
第二大臼歯は一生使い続ける大切な奥歯ですから、親知らずのせいでこの歯がダメージを受けてしまうのは、できれば避けたいところです。
3. 嚢胞(のうほう)や腫瘍の発生
まれではありますが、埋伏した親知らずの周囲に嚢胞(のうほう)(液体がたまった袋状のもの)ができることが報告されています。嚢胞が大きくなると、周囲の骨を溶かしてしまうことがあるため、見つかった場合は治療が必要になります。
もし抜くことになったら、タイミングはいつがいいの?
抜歯が必要と判断された場合、気になるのが「いつ抜くのがベストか」ということです。
一般的には、年齢が若い時期の方が回復が早い傾向があります。コクランレビュー(Ghaeminia et al., 2020)も、研究の背景を説明するなかで、年齢が上がるにつれて、抜歯後の合併症(痛みや腫れが長引いたり、まれに神経に影響が出たりするリスク)が高まると記しています(レビューで検証された結果ではなく、前提として書かれている点は差し引いてください)。若い時期はあごの骨が柔らかく、歯の根っこも完成しきっていないことが多いため、抜歯がしやすく、回復も早い傾向があるのです。
また、Staderini et al.(2019)のシステマティックレビューでは、歯胚除去術(しはいじょきょじゅつ)(親知らずがまだ「歯のたまご」のような未完成の状態(歯胚)のうちに取り除く方法)と、歯が生えてきてから抜歯する方法を比較しています。ただ、条件に合う研究は4本しか見つからず、この方法を推奨するのに十分なエビデンスはまだ蓄積されていない段階です。
こうした研究結果から言えるのは、「抜歯が必要になった場合は、先延ばしにしすぎない方がよい」ということです。ただし、だからといって「急いで抜かなければ」と焦る必要はありません。かかりつけの歯科医師と相談しながら、適切なタイミングを見極めることが大切です。
抜歯にはどんなリスクがあるの?
親知らずの抜歯は外科的な処置(手術の一種)ですので、一定のリスクを伴います。保護者の方が事前に知っておくと安心できるポイントをまとめます。
主な合併症
- 術後の痛み・腫れ:多くの場合、数日から1週間程度で落ち着きます
- ドライソケット:抜歯後の穴に本来できるはずの血の塊(血餅=けっぺい)がうまくできなかったり、取れてしまったりして、骨が露出してしまう状態です。強い痛みが続くことがあります
- 感染:抜歯した部分に細菌が入って炎症が起きることがあります
- 神経損傷(まれ):下あごの親知らずの近くには下歯槽神経(かしそうしんけい)という神経が通っており、抜歯の際にこの神経が影響を受けると、唇やあごの感覚が鈍くなることがあります。多くの場合は時間とともに回復しますが、ごくまれに長期間続くこともあります
合併症を予防するための研究
こうしたリスクを少しでも減らすための研究も進んでいます。
Camps-Font et al.(2024)は、ネットワークメタアナリシス(複数の治療法を同時に比較できる高度な統計手法)を用いて、抜歯後のドライソケットや感染を予防するための抗菌薬(抗生物質)の予防投与の有効性を検討しています。
また、Milic et al.(2021)のシステマティックレビューでも、口腔外科手術における抗菌薬の予防投与について幅広く検討されています。
Camps-Font らの解析(16研究・2,158人)では、抗菌薬の予防投与でドライソケットや手術部位の感染は減るものの、1人の合併症を防ぐために25人(ドライソケット)・18人(感染)に投与する計算になり、効果は大きくないとされています。研究チームは「必要かどうかは、その人の全身状態と感染リスクを見て判断すべき」と結んでいます。実際にどのような予防策をとるかは、お子さんの状態や抜歯の難易度によって異なりますので、担当の歯科医師が判断します。
4. 家庭で気をつけたいこと:保護者の方へのガイド
一番大切なのは「定期的な見守り」です
親知らずについて最も大切なメッセージは、「抜くか抜かないか」の二択で悩む必要はないということです。大切なのは、定期的に状態をチェックし、変化があった時に適切に対応できる体制を作っておくことです。
以下のステップを参考にしてください。
ステップ1:10代半ばからレントゲンで確認する
15歳前後になったら、定期検診の際にレントゲン写真を撮ってもらい、親知らずの有無や位置を確認しましょう。この段階で以下のことがわかります。
- そもそも親知らずがあるかどうか(生まれつき親知らずがない方もいます)
- 何本あるか(最大4本ですが、人によって異なります)
- どんな向きで埋まっているか
- 将来まっすぐ生えてきそうか、それともスペースが足りなそうか
ステップ2:年に1〜2回の定期検診を続ける
症状がなくても、定期的に歯科医師に診てもらうことが重要です。親知らずの状態は時間とともに変化することがあるため、「前回は問題なかったから大丈夫」とは限りません。定期検診では以下のことを確認してもらえます。
- 親知らずの生え方に変化がないか
- 周囲の歯ぐきに炎症の兆候がないか
- 隣の歯(第二大臼歯)にむし歯や歯周病の影響が出ていないか
ステップ3:こんな症状が出たら早めに受診する
次のような症状に気づいたら、定期検診を待たずに歯科医院を受診してください。
- 奥歯の周りの歯ぐきが腫れている・赤くなっている
- 奥歯のあたりに痛みがある(ズキズキ、ジンジンなど)
- 口が開きにくい、開けると痛い
- 奥歯の周りから嫌な味やにおいがする(炎症のサインであることがあります)
- 飲み込む時に痛みを感じる
どんな時に抜歯が検討されるの?どんな時は様子を見ていいの?
以下は、一般的な目安をまとめたものです。
抜歯が検討される場合
- 智歯周囲炎(歯ぐきの腫れ・痛み)を繰り返す
- 隣の歯(第二大臼歯)にむし歯や歯周病を引き起こしている
- 嚢胞(液体のたまった袋)などの病変がある
- 矯正治療の計画上、抜歯が必要とされる
経過観察が可能な場合
- 完全に骨の中に埋まっていて、まったく症状がない
- まっすぐ生えていて、きちんと歯磨きができている
- 定期的に歯科医院に通院できる環境にある
ただし、これはあくまで一般的な目安です。 お子さんの口の中の状態は一人ひとり異なりますし、レントゲンで確認できる親知らずの位置や向き、あごの大きさ、隣の歯との位置関係なども考慮する必要があります。最終的な判断は、お子さんの状態をよく知っているかかりつけの歯科医師と相談して決めていただくのが最善です。
まとめ
この記事の要点
- 症状も病変もない埋伏親知らずを「念のため」抜くべきかは、コクランレビュー(Ghaeminia 2020)でも結論が出ていません。「抜いた方がいい」とも「抜かなくていい」とも断言できない、という評価です
- 親知らず周りの歯ぐきの炎症(智歯周囲炎)は、横向きのものより、まっすぐで歯ぐきから一部顔を出した親知らずで起きやすいという結果があります(Galvão 2019)。横向きの親知らずは隣の歯への影響のほうで問題になります
- 10代半ばのレントゲンと年1〜2回の検診で見守り、腫れ・痛み・隣の歯のむし歯などが出たときに抜歯を検討します。抜歯が必要になった場合は若いほうが回復しやすい傾向があるので、先延ばしにしすぎないようにします
「抜くべき」「抜かないべき」のどちらかに最初から決めてしまうのではなく、信頼できる歯科医師と一緒に、お子さんの成長を見守りながら、その子にとって最善の選択を考えていきましょう。
大阪市中央区にあるIhana歯科北浜では、レントゲン写真で親知らずの位置や向きを確認し、お子さまの口の中の状況に合わせた対応をご説明しています。診察のうえ、必要な場合は専門の医療機関をご紹介します。「うちの子の親知らず、どうしたらいい?」と気になる方は、LINE または Web 予約からご相談ください。
※紹介した研究の記述は公表された論文の抄録の要約で、当院の成績ではありません。抜くかどうかの判断は、お子さま一人ひとりの状態によって異なります。
執筆:岩崎亮也(歯科医師・Ihana歯科北浜 院長)/初出 2026-04-10・更新 2026-10-08(引用した研究7本を PubMed の抄録で照合し、結論が反対だった2か所=Hounsome 2020 の費用対効果と Galvão 2019 の生え方を直しました)
この記事の参考文献・一次資料(全7件)
- 2. 「とりあえず抜いておく」時代から、どう変わったの?
- Hounsome J, Pilkington G, Mahon J ほか 2020. Health Technol Assess 24(30):1-116. 英国 NIHR の系統的レビューと経済評価(コホート4研究・既存レビュー9本。直接比較の試験なし。探索的モデルでは予防的抜歯が費用対効果で有利の可能性) pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- 3. 科学的な研究は何を教えてくれるの?
- Ghaeminia H, Nienhuijs MEL, Toedtling V ほか 2020. Cochrane Database Syst Rev 5(5):CD003879. 無症状・病変なしの埋伏智歯の抜去と保存を比べたコクランレビュー(RCT 1本・前向きコホート1本。抜くべきか残すべきかを決める根拠は不十分) pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Ghaeminia H, Perry J, Nienhuijs MEL ほか 2016. Cochrane Database Syst Rev (8):CD003879. 上のレビューの2016年版 pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Galvão EL, da Silveira EM, de Oliveira ES ほか 2019. Arch Oral Biol 107:104486. 下顎智歯の位置と智歯周囲炎の関連を調べた系統的レビュー・メタアナリシス(21研究・6,895人。垂直位で最も多く、水平位は少ない) pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Staderini E, Patini R, Guglielmi F ほか 2019. Medicina (Kaunas) 55(3):79. 歯胚除去と萌出後の抜歯を比べた系統的レビュー(含まれた研究4本・定性的評価のみ) pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Camps-Font O, Sábado-Bundó H, Toledano-Serrabona J ほか 2024. Int J Oral Maxillofac Surg 53(1):57-67. 下顎智歯抜歯後のドライソケット・手術部位感染に対する抗菌薬予防投与のネットワークメタアナリシス(RCT 16本・2,158人。NNT 25 と 18) pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Milic T, Raidoo P, Gebauer D 2021. Br J Oral Maxillofac Surg 59(6):633-642. 口腔外科手術の抗菌薬予防投与の系統的レビュー(98論文。智歯の外科的抜歯では予防投与を推奨) pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
