フッ素で子どものIQは下がる?2万6千人を60歳前後まで追った研究

歯科コラム

Ihana歯科北浜 歯科医師院長の岩崎です。

先日、アメリカ歯科医師会(ADA)のニュースサイトで、非常に興味深い研究が紹介されました。

それは、

「フッ化物への曝露が、青少年の認知能力の向上と関連している可能性がある」

という内容です。

フッ素について「むし歯予防に良い」という話の一方で、フッ素で「IQが下がるのでは?」という不安を耳にしたことがある方にとっては、少し意外に感じられるかもしれません。

この記事で分かること

  • ADA が2025年11月に紹介した研究(Science Advances)は、アメリカの高校生26,820人を60歳前後まで追った観察研究。推奨濃度(0.7mg/L)の水道水フッ素に触れていた子どもは、高校時の数学・読解・語彙の成績がわずかに良く、60歳前後で悪影響は見られなかった
  • 「フッ素でIQが下がる」の出どころは2024年の米国国家毒性プログラム(NTP)の報告で、対象は推奨濃度の2倍を超える高濃度。問われているのは量と使い方
  • 日本は水道水フロリデーションをほぼ行っておらず、歯みがき粉・洗口・歯科医院での塗布という局所応用が中心。研究が示したのは関連で、因果の証明ではなく、フッ素を使えば頭が良くなるという意味ではない

YouTubeにてわかりやすく動画解説もしておりますので、こちらもチェックしてみてください〜

目次

1. はじめに|なぜ歯科医師が「認知能力」の研究を語るのか

2025年11月、アメリカ歯科医師会(ADA)の公式ニュースサイトにおいて、フッ化物と青少年の認知能力に関する研究が紹介されました。紹介記事(ADA News 2025年11月20日)と論文の出典は、記事末の参考文献にまとめています。

フッ素といえばむし歯予防のイメージが強く、認知能力や学業成績と結びつけて語られることはほとんどありません。そのため、このニュースに驚かれた方も多いのではないでしょうか。

一方で、「フッ素でIQが下がるのではないか」といった情報がインターネット上で広まり、不安を感じている保護者の方も少なくありません。本記事では、歯科医師の立場から一次論文まで遡り、科学的に正しく読み解きつつ、日本の私たちはどう受け止めるべきかを解説します。

補足として申し添えますが、フッ素っていうのは、私たち歯科関係者はよくフッ化物と言います。ですが、今回の記事と動画では一般の方にもわかりやすいように、フッ素と多く使っています。

専門家向けにはフッ化物と使うことが多いんですけど、フッ化物ってフッ素のことを言っているんだなと思ってもらったらいいです。

2. ADAが紹介した研究と、その信頼性

ADAが取り上げた研究は、”Science Advances”という国際的に権威のある科学雑誌に掲載された論文です。”Science Advances”は、世界的に有名な学術誌”Science”の姉妹誌であり、厳格な査読を経た研究のみが掲載されます。

“Science”は自然科学3大雑誌(Cell、Nature、Science)の一角を担う非常に有名な雑誌になります。こちらに載るとすごく科学的な権威があるっていうふうな感じですね。

少年誌で言えば、”ジャンプ”、”マガジン”、”サンデー”みたいな感じです。これらの雑誌に載ると「ジャンプ連載作家!」みたいな感じで有名になりますよね。そんな感じで”Science”に掲載されたら、「Science作家」とは言いませんが、「Scienceに載った人!」みたいな感じで、研究者の中でも有名になる権威が出るというような感じです。

論文のタイトルは「生涯にわたる小児期のフッ化物曝露と認知機能」(Childhood fluoride exposure and cognition across the life course・Warren ほか・2025年11月21日号)。ここでいう認知機能とは、単なるIQテストではなく、成績や認知課題のパフォーマンスを含む、広い概念として評価されています。

3. この研究が評価される理由|規模と設計の観点から

この研究が注目される理由の一つは、その規模と追跡期間にあります。対象は、アメリカ全国を代表するように選ばれた高校生の追跡調査(High School and Beyond コホート)に参加した、1,000校を超える高校の26,820人。高校生のときの学力テストと、60歳前後の認知機能テストの両方を見ています。研究の型は観察研究(コホート研究)で、参加者をくじ引きで分けて比べた試験ではありません。これほど大規模かつ長期間の研究は、少なくとも歯科領域ではかなり珍しいです。

さらに重要なのは、単に「フッ素を摂取していたかどうか」ではなく、アメリカで推奨されている水道水中フッ化物濃度、すなわち1リットルあたり0.7mgという推奨濃度での曝露があったかどうかを基準に評価している点です。

つまり、水道水のフッ素が入っているものを飲んだことがあるかないかみたいな話じゃなくて、推奨濃度のやつを飲んでいたか使っていたかっていうところを選別している点が、この研究のすごいところなんです。

4. フッ化物曝露と学業成績、そして将来の認知機能

研究の結果、小児期に推奨濃度のフッ化物を含む水道水を摂取していた群では、高校生時点における数学、読解、語彙の学業成績が、統計的にわずかではあるものの良好であることが示されました。

また、60歳前後の認知機能では、高校生のときに見られた差は小さくなり、統計的に有意ではなくなりました。悪い方向の差は見られていません。これは「フッ素が認知能力を向上させる」と断定できるものではありませんが、適切な濃度で管理されたフッ化物が長期的に有害であるという証拠は見られなかった、という重要な結果が出ました。

研究結果を簡潔にまとめると、以下のようになります。

  • 小児期に推奨濃度のフッ素を含む水道水を摂取していた子どもは→ 高校生時の数学・読解・語彙テストの成績がわずかに良好。
  • さらに60歳前後の認知機能に悪影響は認められなかった。

「大きく成績が上がる」というよりは、

少なくとも悪影響はなく、むしろ軽度にポジティブな関連が見られたといったところです。

5. アメリカと日本におけるフッ素応用の違い

ここで、日本の患者さんが理解しておくべき重要な前提があります。それは、アメリカと日本ではフッ素の使い方が大きく異なるという点です。

アメリカでは、水道水にフッ化物を添加する「水道水フロリデーション」が広く行われています。これは飲料水として摂取する全身応用にあたります。フッ素が全身に回ることで歯も強くなるみたいなイメージを持ってもらえるとわかりやすいかなと思います。

日本では水道水フロリデーションはほぼ実施されておらず、フッ素入り歯磨き粉やフッ素洗口、歯科医院でのフッ素塗布といった局所応用が中心です。全身への影響はさらに少ない方法です。歯みがき粉や洗口液は、年齢に応じた量と回数の目安を守って使うことが前提になります。

なんとなく全身応用の方が効きそうって思う方もいらっしゃるかもしれないです。

歴史的にフッ素は、ある地域のフッ素濃度が高いところに住んでいた方々が、みんなむし歯ができにくいというのがことの始まりです。それはなんでだろうっていうところから、フッ素が歯にいい影響を与えているんじゃないかっていうことがわかりました。

それからは全身応用から、フッ素を歯に塗っても効くんじゃないかっていうことで、今は局所応用でもちゃんと効くよってことが研究で結果として出ている状態なんですよね。

「水道水フロリデーション」の利点は圧倒的にコスパが良いことです。

フッ素を水道水に入れるのは非常に安価でしかも効果がめっちゃ高いです。何より重要なのは格差がない、平等なアプローチになるってことです。
つまり、貧困な層、貧困層に関しては、例えば歯磨き粉、フッ素歯磨き粉が買えなかったりする。そういう場合も、水道水にフッ素が含まれていて、飲むことでむし歯にならなければそれはみんなを平等に救えることになりますよね。
ですので、そういう格差のない平等なアプローチという意味では非常に優れた方法です。

ではデメリットは何かというと、摂取量の調整は非常に難しいという点です。

水道水をめっちゃ飲む人とめっちゃ飲まない人で、飲む人は摂取量多くなるし、全然飲まないっていう人は摂取量が少なくなってしまう。そういう摂取量の調整というのは非常に難しいかなと思います。

そして、一番難しいのは選択の自由というところですね。水道水に入れちゃうと、全員がフッ素を摂取することになるので、選択の自由がないわけですよね。そうすると、それは一つの権利を奪ってるっていうふうにも考えられます。

これが80年間アメリカの方で議論が続いている理由の大きなところかなと思います。

6. 「フッ素でIQが下がる」という話の出どころ

2024年、米国国家毒性プログラム(NTP)は、高濃度のフッ化物曝露とIQ低下のリスクについて言及した報告を公表しました。この内容が一人歩きし、「フッ素は危険なのではないか」という印象を持たれた方もいるかもしれません。

しかし、この報告で問題とされていたのは、推奨濃度を大きく超える1.5mg/L以上という高濃度のフッ化物曝露です。これは現在の推奨濃度の2倍以上にあたります(ADA News の紹介記事でも、この報告の対象は推奨濃度の2倍を超える濃度だったと説明されています)。すなわち、明らかに過剰な量ということです。

今回の研究の結果、どちらかというとIQ下げるよりかは成績上がってるよみたいな結論が出ています。

塩でも多量に取ると毒になるみたいな感じですし。フッ素に限らず、どのような物質であっても、摂取量が過剰になれば毒性を示す可能性があります。歯科医療において重要なのは、「フッ素は安全か危険か」という二元論ではなく、「量と使い方が適切かどうか」です。

なので、そういう意味で薬は毒と紙一重みたいなところはありますので、フッ素もやっぱり摂りすぎると毒性があるっていうことです。

7. 歯科医師として伝えたいこと

フッ素は自然界にも広く存在し、水やお茶、魚介類などを通じて、私たちは日常的に少量ずつ摂取しています。完全に排除して生活することは現実的ではありませんし、その必要もありません。

今回の研究が示唆しているのは、適切な濃度で管理されたフッ化物は、少なくとも長期的な認知機能に対して有害ではない可能性が高いという点です。そして、日本で一般的に行われているフッ素入り歯磨き粉や歯科医院でのフッ素塗布は、さらに安全域の広い方法だと考えられます。

最後に大切なことですが、この研究って別に因果関係が証明されたわけではないですし、認知能力が向上するメカニズムということも言及は特にありません。

ですので、「フッ素を使えば頭が良くなる」という意味ではありませんし、くれぐれも「認知能力向上のために歯磨き粉を食べる」といった誤った使い方はしないようにしてください。

まとめ

この記事の要点

  • ADA が2025年11月に紹介した研究(Science Advances)は、アメリカの高校生26,820人を60歳前後まで追った観察研究です。推奨濃度(0.7mg/L)の水道水フッ素に触れていた子どもは、高校時の数学・読解・語彙の成績がわずかに良く、60歳前後で悪影響は見られませんでした
  • 「フッ素でIQが下がる」の出どころは2024年の米国国家毒性プログラム(NTP)の報告で、対象は推奨濃度の2倍を超える高濃度です。問われているのは量と使い方です
  • 日本は水道水フロリデーションをほぼ行っておらず、歯みがき粉・洗口・歯科医院での塗布という局所応用が中心です。研究が示したのは関連で、因果の証明ではなく、フッ素を使えば頭が良くなるという意味ではありません

医療情報は、切り取られた一部だけが強調されることで、不安を煽ってしまうことがあります。歯科医師として大切にしたいのは、恐怖ではなく、科学的根拠に基づいた冷静な判断です。

フッ素は、正しく使えばむし歯予防において非常に有効なツールです。本記事が、患者さんや保護者の方にとって、フッ素について安心して考えるきっかけになれば幸いです。

大阪市中央区にあるIhana歯科北浜では、お子さまの年齢やむし歯のなりやすさに合わせて、歯みがき粉の使い方や歯科医院でのフッ素塗布をご説明しています。「うちの子にはどう使えばいい?」と気になる方は、LINE または Web 予約からご相談ください。

※紹介した研究は公表された資料の要約で、当院の成績ではありません。
※研究が示したのは関連であり、フッ素が認知能力を高めるという因果関係を証明したものではありません。

執筆:岩崎亮也(歯科医師・Ihana歯科北浜 院長)/初出 2025-12-19・更新 2026-10-08(論文と ADA News を一次資料で確かめ、研究の規模と設計、60歳前後の結果の読み方、関連であって因果ではない点を書き足しました)

この記事の参考文献・一次資料(全2件)
2. ADAが紹介した研究と、その信頼性/3. この研究が評価される理由/4. フッ化物曝露と学業成績
Warren JR ほか 2025. Science Advances 11(47): eadz0757. 米国の全国代表サンプル High School and Beyond コホート(1,000校超の高校生26,820人)の飲料水フッ化物曝露と、高校時・60歳前後の認知テスト成績を見た観察研究(関連であり因果ではない) doi.org(Science Advances)
1. はじめに/6. 「フッ素でIQが下がる」という話の出どころ
Anderson O 2025-11-20. ADA News「New study finds US fluoride exposure linked to better adolescent cognitive performance」(上の論文の紹介記事。n=26,820・推奨濃度0.7mg/L・NTP 2024年報告は推奨濃度の2倍超が対象、の記載) adanews.ada.org

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